2000年3月30日



2000 3/30

グラウンドの真ん中でオレはただ黙って空を眺めていた。
両手をジャンパーのポケットに突っ込んで地面を軽く蹴っ飛ばすと、オレはどこかのミュージカルのダンサーがやるみたいにくるりと回って口笛を吹いた。
空を見ているといつも何か不思議な気分になる。
地球は本当にちょっとしたカプセルみたいなもんだ。
空はいつも広いけれど見上げるたび、押し入れの中にいるみたいな安らかな気分になる。
何も遮るもののないどこまでもつづく空が、例えは下手だけどまるで棺桶みたいにいつだってオレをやさしく包んでくれる。

今日はとても暖かい日だった。
バイトの帰り道、オレは何となく寄り道をすることにした。
こんなに暖かい日はもうずいぶん久しぶりのことだったから、そのささやかな春へのお祝いみたいなもののつもりで、オレは近所の小学校のグラウンドに忍び込んだのだ。
こんな夜は、しっかりと味あわないと春にも失礼だ。
せっかくだからビールを買ってくれば良かったのだが、そのことに気がついたのはグラウンドの真ん中でタバコに火を点けた後だった。
風が吹くたびにグラウンドをぐるりと囲んだ木々達はざわざわと雨の音のような、波の音のような、どこか懐かしい気持ちのいい歌を歌った。
オレはしばらく月を探していたのだけれど、どうやら今日は新月だったらしく、月はどこにも見当たらなかった。
ふと小さな星を見つけて、数えてやろうと思って空に別の星を探していたら北の空にひしゃく星を見つけた。
星達は小さいながらもこのくそやかましい東京の空にまだ頑張っていたようだ。
オレはずいぶんと久しぶりの暖かい夜に、それよりもさらに久しぶりのひしゃくを見つけて、なんだかうれしくなって少しグラウンドを走ってみたりした。
風が頬に当たって、どこからか花の匂いがした。
ひしゃく星に見せてやろうと思って、オレは夜のグラウンドで一人しばらくジャンパーのポケットに手を突っ込んでステップを踏んだり、タバコの煙で輪っかを作ったり、社交ダンスの真似をしたり、歌を歌ったりしていたのだが、ひょっとするとひしゃくのやつにはオレが仲間に見えたのかもしれない。
何度かウインクをしてきたので、オレも何度か投げキッスをくれてやった。





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