2000年4月27日
2000 4/27
久しぶりの何の予定も入っていない休日だ。
家でごろごろしていようかとも思ったのだが、せっかくなので出かけることにした。
新宿でデパートの地下食品街を試食の鬼と化して歩いてみたり、おもちゃ売場をひやかしつつそこらへんの子供をからかってみたり、雑貨屋さんや古着屋さんでスターグッズを物色してみたり、平日は半額になるマクドナルドのハンバーガーを3個食べて胸やけに悩まされたり、なかなかに楽しい日だったのだが、それよりかもうちょっと手前、自宅を出て電車に乗り込み新宿に向かうまでの道のり、今日のメインイベントは思いがけずその短い間に起こった。
幸せなんてものは実は意外に目的地よりもずっと手前に落っこちていたりするものなのだ。
晴れていた。
風はいいかんじにオレの顔面とダンディー精神をくすぐって、眉毛を細めたオレは意味もなく一人、
「もう春も終わりだな。」
などとかっこよくつぶやいた。
不必要に肩を丸めてタバコに火を点け、「マイ・ウェイ」を口ずさみながら歩くオレはなんてかっこいいのだろう。夜だったら間違いなく酔いどれ天使といった風情だ。
行き過ぎる女達はオレに視線でラブアタックしてくるが、オレはルーシーと別れて以来もう女を愛することなどできなくなっちまったのさ、ごめんよ、と目で殺し、2本目のタバコに火を点けたあたりでようやく地下鉄、いやメトロへの薄暗い階段の前にたどり着いた。
メトロの構内は禁煙だ。
構内では常に「メカ・ドッグ」が巡回しており、タバコを吸う者には容赦なく神経牙をむき出しにして襲ってくる。
新地球(ニュー・ガイア)の多国籍政府議会はちょうど15年前、環境建築(アーコロジー)法を可決し、違反者には75日間のシリウス星開拓強制労働か、マッドラフ(狂い笑い)を科していた。
もちろんそれも下級民にのみ、だ。
オレは真空電磁灰皿「キプロス」にハイライトを詰めると緑のボタンを押し、吸いがらがそのフィルターにいたるまで全て灰になるガガっという乾いた音を聞いていた。
一度間違えてキプロスにコインを入れてみたことがあったが、後で見てみると金属が丸く結晶化した黒真珠の様なカスが出てきたっけ。
キプロスは古物商のジム爺さんから120クレジットで買ったのだ。
ジム爺さんはその2年後シリウス行きを命ぜられ、そしてそのまま帰って来なかった。
などと海外ハードボイルドSFみたいになって白目をむいて一人にやけている時、何となく駅前の本屋の前の植え込みに目がむいた。
するする。
そう、本当にするすると音がしたんじゃないかと思うほど、吸い寄せられるようにオレはクローバーの密生した一区画に近付いた。
そして震える手で「それ」を手にとり、自分の背中に鳥肌が立つのをしずかに感じていた。
それは自分の意志というよりもまるで何か目に見えない力で操られているような、不思議な感覚だった。
昔から機会があるごとに何時間も草原を探し廻っていて、それでも見つけることのできなかった「ラッキー」。
友人が古本屋で買った古本に挟まれているのを見つけたという素敵な話を聞き憧れた「ラッキー」。
人によっては何度も目にしたことがあるというのに、一度も目にしたことがないオレにはその伝説の姿態を想像することしかできなかった「ラッキー」。
四葉のクローバーが今ではオレの目の前で新聞紙に挟まれている。
今日は生まれて初めて四葉のクローバーを見つけた。
本当、
幸せ(ラッキー)なんてものは実は意外に目的地よりもずっと手前に落っこちていたりするものなのだ。
なんちゃって。
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