2000年5月4日



2000 5/4

ゴミ捨て場の横でタバコに火を点けると、なんだかこのまま真っ直ぐ家に帰るのが急にもったいなくなったのだ。
曇ってはいたがシャツの隙間に風の涼しい、気持ちの良い夜だった。
散歩にすると決めた途端、げんきんな歩行のやつが鼻歌を唄い始めた。
いや、歩行の鼻歌につられて「それならば本格的に遊んでやるか」と散歩を思い立ったのかもしれない。
何にせよもうそれは移動ではなかったし、もしかするとスキップですらあったかもしれない。
オレはにぎやかなコンビニをやり過ごして、夜の方へ夜の方へ面倒くさそうなふりをして歩いた。

通りの途中で路肩に腰掛けて遠くまで続く街灯を眺めていた時だ。
生真面目に並んだ街灯の下に知っている顔を見つけた。
「よお。」
と声をかけるとその顔が困ったみたいに笑った。
「今からどこかに出かけるの?」
知っている顔は何かを気にするみたいにくるりと廻りを見渡してからそう言った。
「いや、今帰って来たとこや、でも今は「まだ」出かけてるとこや。」
知っている顔は相変わらず落ち着かない様子で路肩に座り込んだオレを見下ろしていた。
オレはタバコ一本分の時間を使ってようやくその顔がオレの次の言葉を待っているのだということに気が付いた。
「今から帰るとこやろ?送ってったろか。」
「いいよ。スターのお家すぐそこじゃん。」
「いや、今オレ散歩の途中なんや。ちょうどいいし話しながら歩こや。」


たぶんあのこはオレのことが好きだったんだろうなと思う。
もう1年くらい前になるが、まだオレが近所のビデオ屋でバイトしていた頃にもよくああして二人で夜の街を歩いたっけ。
バイトが終わって外に出て、オレがあのこのオレを待っているのを見つけるたび、あのこは笑ってオレに手を振った。

オレは家に帰ると夕べ買ったトマトジュースの残りを飲み干してから、しばらくの間窓を開けて空を眺めて、どこかしら春の匂いのする風に吹かれながらタバコを吸った。





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