体重計を買った
買ってしまった。
ついに買ってしまった。
体重計を買ってしまったよ、お母さん。
「あー、そう。そうなの。そういう人なんだ、君は。ちまちま計るんだ、体重を。」
などと倒置法で嫌味のひとつも言われそうではあるが、このさいそういう人は無視する。
言われそうではあるが、嫌味のひとつも。無視するよ、このさい。
こっちも倒置法で対抗する。
太ることを恐れるなんてのはあまり男らしくないし、なんとなくかっこわるいことのような気はする。
そういう気はするが、こっちは別にこれから生活態度を改めてどんどん痩せたい、引き締まった体に浅黒い肌、さわやかスマイルで夏の海辺の注目をあびたい、というあれであれしてるあれではないのだ。
血糖値のあれでもないし、第一、太ることはそんなに嫌ではない。
作為あふれるムキムキボディで自意識のいやらしさを暴発させるくらいなら、むしろ自然に太っていたいとさえ思う。よっぽど好きでなきゃスポーツなんかしないし、出されたメシは黙って全部食う。オレはどちらかというとそういういさぎよい男なのだ。さりげなくないことは嫌いなダンディーなロンリーウルフなのだ。
ではなぜ体重計を買ったのか。
それはただ単に自分の体重を知りたかったからだ。どーん。
知りたかったからだ、自分の体重を、ただ単に。
この「ただ単に」というところを、特に倒置法で強調したい。
オレはたまに銭湯に行ったとしても、その男らしさのあまり体重計に乗ったりしたこともなく、高校生の頃の身体測定で計って以来、最近この体重計を買うまで自分の体重を知らずにいたのだ。
人と話していて体重のことが話題が上ることは少なくない。
そういう時オレはいつも戸惑ってしまっていた。
「オレ、5キロも太っちゃってさあ。」
5キロ……、だいたいあのお米くらいの重さか。
「あたしの知り合いに体重が80キロの人がいてぇ、その人はぁ、身長はあたしと同じくらいなのね。」
身長はこれくらいで、だいたいあのお米16個分か。
「あたしの体重当ててみてよ。」
うーん、この人はだいたいあのお米何個分くらいなんだろう。
というかんじで、基準にするものが「あのお米」くらいしかなかったのである。
けっこう前からもうちょっとちゃんと10キロとか50キロとかの重さがどれくらいなのか、きちんと体感として知っておきたい、と思っていたのだ。
というわけで体重計を買ってきたのである。
オレの体重は60キロだった。
だいたい「あのお米」12個分くらいである。
これでやっときちんと、こんくらいの背格好ならだいたい60キロくらい、という基準値が得られた。
オレはどちらかというとお腹がぷっくりしてるので、スリムな人なら55キロくらいだろうか。
あいつはだいたい68キロくらいだな、というかんじで人の体重もなんとなく分かるようになってきた。
そうするとなんだか楽しくなってきて、ひっきりなしに体重計に乗るようになってしまった。
乗るようになってしまったら、自分が多い時には1.5キロもメシを食ってるなんてことも知ってしまった。
そうするとなんだかさらに楽しくなってきて、さらにひっきりなしに体重計に乗るようになってしまった。
そして自分だけでなく、いろんな物の重さを計るのが趣味の、名づけて、そして自分だけでなくいろんな物の重さを計るのが趣味マン(以下、略して趣味マン)になってしまったのだ。ザザーン(波しぶき)。
その1,
趣味マンは加山雄三みたいな口調で、
「いやあ、遊べますよ体重計は。」
「ビシバシ計れますよ。」
などと言う。
その2,
趣味マンは自宅にあるテレビなどの電化製品の重さをすべて把握している。またはその気持ち。
その3,
趣味マンは自宅にあるタンスなどの家具の重さをすべて把握している。またはそのやり場のない怒り。
その4,
いろんな物を担いで体重計に乗ったりしたので、実は背中が筋肉痛であるが、そんなことおかまいなしで担ごうとして医者に止められた。
その5,
故郷のハカリ星へはどうやって帰っていいのか分からない。
その6,
趣味マンテーマソング
計れ 計るぜ オレを
計れ 計るぜ 愛を
計れ 計るぜ 夢を
オレのちゃぶ台3.1キロ
悪のセンチメートル
くらえっ!! 正義のキログラム
アイダホポテトは0.2キロ
百貫デブって何キロだ
計れ 計るぜ オレを
計れ 計るぜ 愛を
計れ 計るぜ 夢を
オレのギターは8.2キロ
悪の風速5メートル
オレの風圧20キロ
月々家賃は88000キロ
その内管理費3000キロ
行け 行け 趣味マン
行け 行け 趣味マン
牛丼3杯で1.5キロ増
というわけで体重計にはまっています。
一日に50回くらい体重計の上に立っています。
うんこする前と後で体重が1キロくらい変わってるとなぜか嬉しくなります。
ちなみにテレビは12キロでした。
それではさようなら。
1999 7/10 又吉究
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