ドラマチック



 青山あたりの交差点でオレンジを落として(みかんではなくオレンジ)ああこれはいかん、まいったまいった、などといいながらあちこちに散らばったオレンジを拾ってるうち、あら大変、などと言いながら親切にも拾うのを手伝っていた美女(27歳、青山在住、新進気鋭のピアニスト)と手と手が触れ合い、「あっ」っとか言っておたがいがすばやく手を引っ込めたものの、目と目が見つめ会い、
「そうよ、あのときあたしには本当に電気がビビッて流れたのよ。うふふ。」
「僕も本当にあんな出会いがあるとは思わなかったよ。ビビッときたよ。ビビッとね。」
 などと言いながら二人はベッドの上。いつの間にか将来を約束しあう仲になっていたのだった。などという話は本当にあるのだろうか、と言う。あるに決まってるじゃないか。オレなんかしょっちゅうそんなかんじだ。スターは毎日がドラマチックだ。一日一日がまるで映画のようだ。


「あなたは本当の愛を知らないのよ。ふぅ。」
 ライブがおわった打ち上げのざわざわ騒がしい居酒屋で、女がダルそうに言った。
「君は本当の愛を知っているのかい。」
「さぁね。似たような思いならたぶんしたことがあるわ。」
 何処かで聞いたことのある無愛想なかんじの音楽が鳴っていた。さっきまで「スター、スター。」と叫んでいた女の娘もいつの間にかそこいらへんで盛り上がっていて、ようやく一人でゆっくり酒でも飲もうかと思っていたちょうどそんな頃だった。
「何なら教えてあげてもいいわよ。うふふ。」
 なんだか遠くを眺めるみたいに、女はやっぱりダルそうにそう言って、灰皿に置いていたオレのハイライトを勝手に吸い始めた。
「君はキスするとき、目をつぶるかい。」
「えっ。」
「女はね、愛されるのはいつでも上手だけど男を愛したことは無いのさ。」
「どういう意味。」
「男は愛し合いたいと思って、女を自分のもてる力すべてで愛するんだ。自分が愛すればそれだけ相手が愛してくれると思って。でもね、女は愛し返してなんかくれないんだ。愛されて、幸せで、目をつぶる。」
「あなたは可哀想な男ね。」
 女がオレのタバコを返してくれそうになかったので、オレは新しいタバコに火を点けた。
「そろそろ終電だな。」
 と誰かが呟いた。気が付くとさっきまではギチギチに混んでいたその居酒屋も、いつの間にかオレたちだけになっていた。
 そうかそうか、さっきから流れていたこの無愛想な音楽は「蛍の光」だったのだ。
 酔っ払っていたのかもしれない。全く気づかなかった。
 改めて店内を見渡すと、エプロンを着たポニーテールの店員の女が、迷惑そうにオレ達のテーブルを見ていた。
「二人でどっかで飲み直そうか。」
 と女が言った。なんとなくそのまま二人は夜の街に消えて行き、まるで慰め合うように冷えた体を温め合うのでした、というような雰囲気でもあったがオレは、
「なんだか面倒臭ぇや。」
 とカッコよく呟いて一人でその店を出た。
 表に出ると外はまだ雨が降っていた。雨の夜は黒がきれいだ。ネオンサインの隣で夜の闇はぬらぬらと奥深い艶をあらわにしていた。
 行き過ぎる車を何げなく見つめながら、ひりひりする喉に無理やりタバコの煙を流し込んで、オレはガードレールに腰掛けた。
 やす子のことを考えると少し胸が痛んだ。
「やす子。」
 いつの間にか声に出して呟いている自分がいた。
 やす子というのが誰なのか実は自分でもさっぱり分からなかったが、どうもオレはいつの間にか「やす子という女と別れた真夜中のブルースマン」になっているらしかった。
「やす子。」
 ついでなのでもう一度呟いてみた。
 なんだかよく分からないけど、なんとなくやす子の思い出が、幸せだったころの情景が、淡くせつなく胸にあふれ出してきた。
 つらく悲しい別れだったハズなのにどうしてだろう。楽しかったことしか思い出せない。
「やす子、おまえはずるいよ。オレはまだここでもう少し生きてみるよ。」
 なんということなのだろう。やす子はもうすでに死んでいるらしい。自分で言ったくせにオレは少し驚き、そして少し悲しくなった。
 雨に打たれて泣きながらオレは気づきつつあった。
 そうだ。そうなのだ。会ったこともない、実際に存在するかも分からないやす子を、オレは確かに愛していたのだ。
 かっこいいオレがかっこよく歩きだすと、なんとなくかっこいい曲が頭の中でなんとなくかっこよく流れ始めた。
 夜はまだ始まったばかりだった。     


 とまぁざっとこんなもんだ。


想像


 想像はいつもまほうのように
 本当に現実をかえる
 はたから見てわからなくっても
 そんなのは関係ない
 オレは毎日を
 本当にドラマチックにすごしている。
 じつをいうと
 週に一度くらいは地球の危機を救っているんだけど
 それを知る者はオレ以外には二人くらいしかいないし
 それはそれでいいと思う
 本物の勇者はそんなことはあまりペラペラ喋らないし
 他人に尊敬されたくてやったワケでもない
 勇者はただお姫様の笑顔が見たかっただけだ。

 現実逃避と言われても気にするな
 くやしかったら引きずり下ろしてみろと言ってやれ
 どんな現実でも目覚めることのない夢を見ているのだとしたら
 そんなつよくて
 かっこいいやつはいない

 ノーミソがとびでてても
 血がとまらなくても
 目の前がかすんできても
 体が動かなくなっても
 死んでしまっても
 そんなのはどうでもいい
 気にもならない
 だって夢を見てるんだからね

 まほうをしんじるなら
 君もつれてってあげるよ
 オレの夢は
 だれよりも大きい
 ほら
 あのこは今日もお姫様だし
 オレは今日も
 地球を守ってる




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