NTT



 みなさんはNTTの発行しているハローページという電話帳の、名前の横にたまにカッコがついていて、そこに「歯科医」とか「会計士」とか、そういう職業が記載されているのをご存じだろうか。
 これはその個人の電話番号が単なる住居用ではなく、業務用として登録されていることを表している。
 業務用で登録すると、月々の基本料金が2600円高くなるのだが、その代わりタウンページという職業別電話帳にも別に載っけてくれるので、けっこうな宣伝になる。


 実は去る4月、オレはこれに「スター」で登録できないもんかと思いNTTに電話を入れてみたのだが、 「登録なら10月にした方がいいですよ、今登録したら来月から2600円増えますが、締切は11月になっているので、それまでに登録すれば翌年の電話帳には間に合いますから。」
 ということだった。そこで今日10月2日、さっそくもう一度問い合わせてみた。
 ハローページでオレの名前をひいた時、「又吉究(スター)」となっていたらこれはもうメチャメチャかっこいいではないか。たぶん日本初のことだろうし、タウンページにもオレ一人だけ「スター」で載るだろうし、それだけで歴史に残る重要な挑戦ではないか。2600円払います、惜しくありませんよNTT君、というかんじである。
 はいっ、ここで今「なんだよこいつ、バカじゃねーの。出来るワケないじゃん。」と思った人、出来ればタウンページを開いて頂きたい。そしてパラパラとめくって頂きたい。・・・・・・ホラ、あるでしょ変なのが。「トタン」とか「サンゴ」とか「シャッター」とか。ね、やった事もない人にそういう事言われたくないの。「サンゴ」の人が挑戦したから今「サンゴ」があるの。人の挑戦に「無理だからやめとけ」だの何だの言うヤツに限って、失敗したら「ホラ見ろ、言わんこっちゃ無い」とか、成功したらしたで「オレだってやってりゃあれぐらい出来た」だの言うの。そういうのをね、関西弁ではヘタレっていうの。いっとかなあかんちゃうの。


 ちょっと難しいかもしれないとも思ったが、オレには過去2年間に渡って「スター」で国に納税しているという実績がある。たぶんにしきのあきらも応援してくれる。いや、本当のこと言うとにしきのあきらはあんまし好きじゃない、っていうかいつもは敵視してるくらいなんだけど、事ここに至っては共闘もやぶさかでないとまで考えていたのだ。
 さて、電話を入れると受付のお姉さんは明らかに動揺したかんじで、
「ス、スターですか。あ、あの星のヤツですか。」
 と言った。
「そうです、職業はスターです。納税も「スター」でしています。タウンページにそういう職種がなければ、新たに作って頂けませんでしょうか。例えばカラオケ関連の職種とかは、最近新たに出来た訳ですよね。場合によってはタウンページは「芸能」の欄に含んでもらっても構いませんが、あくまで登録の方は「スター」ということで、ハローページの方はちゃんと後ろの方にカッコで「スター」として頂きたいんですが。」
 こっちは必死である。
 が、向こうの言う通り、あっちに電話したりこっちに電話したりして2時間くらい頑張ったが、全くラチがあかない。「出来ません」の一点張りである。
 それでは「ならば理由を聞かせて頂きたい。」と言うと、それではということで責任者が出てきた。
 ところが理由はないのである。そのあたりはまあ社会の動向等見据えつつ善処していきたいが、現時点では諦めて頂きたい、そういう要望があったということは確認致しましたごきげんよう、というのである。
 スターだけでなく「芸術家」でも、やっぱりダメであった。「芸術家」という欄も今は存在しないし、新たに作る予定もないということだった。


 オレはマンガも書く。俳優としてドラマにも出演する。モデルもする。写真も撮る。歌も歌う。作詞も作曲もする。小説もエッセイも詩も書く。オブジェも作る。絵も描く。素人の趣味ではない。全部を合わせれば今までに500万以上カルく、はないけどそれくらい稼いでいる。もちろんあまり有名でないことは自分でも分かっている。だがオレのような人間の職種は何になるのだ。だから自分で「スター」を名乗ってるんじゃないか。「きらめき」を金に換えているのだ。今までだってどんな時も、職業を記入するときには「スター」としてきたのだ。橋本治さんもアラーキーも三代目魚武濱田成夫さんもブーツィーコリンズも坂本スミ子さんもよしお君もさっちゃんも「キミはスターだ。」と言っていたのだ。他の職業は載っけるのにえこひいきじゃないか。オレも命張ってスターをやっているんだ。えこひいきだ。
 と、泣きついてもやっぱりダメであった。
 怒ってもダメ、泣いてもダメ、笑ってもダメであった。
 ちなみに聞いたら、「フリーター」もダメだった。
 唯一の救いはその責任者の、
「私も30年この仕事をやっていますが、こういうのは初めての要望です。」
 というセリフだった。
「サンゴ」の人は何て言ったんだろう。


1998 10/2 スタ−又吉究(24)




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